臨床研究

小児固形悪性腫瘍に対する超音波硬度計測における組織硬度と病理学的分子生物学的解析

1.観察研究について
 九州大学病院では、最適な治療を患者さんに提供するために、病気の特性を研究し、診断法、治療法の改善に努めています。患者さんの生活習慣や検査結果、疾病への治療の効果などの情報を集め、これを詳しく調べて医療の改善につながる新たな知見を発見する研究を「観察研究」といいます。その一つとして、九州大学病院小児外科では、神経芽腫群腫瘍、腎芽腫、肝芽腫、横紋筋肉腫、悪性胚細胞性腫瘍など小児固形腫瘍の患者さんを対象として、小児固形悪性腫瘍に対する超音波硬度計測における組織硬度と病理学的分子生物学的解析に関する「観察研究」を行っています。
 今回の研究の実施にあたっては、九州大学医系地区部局観察研究倫理審査委員会の審査を経て、研究機関の長より許可を受けています。この研究が許可されている期間は、2026年12月31日までです。
2.研究の目的や意義について 
 近年、超音波検査において組織硬度を計測するエラストグラフィが一般的になりつつあります。エラストグラフィは、近年、通常市販されている超音波検査の機械にすでにプラスされた1つの機能で、組織のゆがみやすさから組織の弾性やその分布を画像に色表示したり、また、組織の中のせん断波の伝搬速度分布を計測して定量的に硬さの分布を表示する方法もあり、腫瘍の良悪性鑑別や線維化等を非侵襲的の評価できる技術です。成人の乳腺疾患や肝硬変において低侵襲に腫瘍や組織硬度が測定でき、乳腺ではその組織分類を類推する一助として、肝硬変ではその進行度を示す手段としてその有用性が報告されています。さらに近年では、腎臓の悪性腫瘍と良性腫瘍の比較において、超音波を用いたエラストグラフィで明らかな差を認め診断の一助となることが報告され、悪性腫瘍のリンパ節転移の際にリンパ節の組織硬度を超音波を用いたエラストグラフィを用いて測定することでリンパ節転移の有無の判定に有用であるとも報告されています。さらにこの超音波検査における組織硬度測定の利点としては、通常の診療における超音波検査時に、特に侵襲を伴わずしかも短時間に測定することができ、患者の負担もほとんどないことが挙げられます。当科ではこれらの報告に基づいて、小児悪性腫瘍が疑われる患者さんにおいて、通常の検査として超音波検査が行われる際に、診断の一助として、腫瘍や転移が疑わるリンパ節を対象に組織硬度を計測することがあります。しかしながら、成人領域では報告があるものの、小児領域において肝硬変の領域や腎臓領域には用いられているものの、とりわけ小児悪性腫瘍においては、エラストグラフィの組織硬度はいまだにはっきりしていません。
 最も小児において頻度の高い固形悪性腫瘍である神経芽腫群腫瘍においては、神経芽腫という悪性腫瘍から、良性腫瘍である神経節腫へ自然に分化してくものがあったり、分化している神経節腫内に悪性腫瘍である神経芽腫が発生したりすることが知られていますが、神経芽腫と神経節腫は間質成分の比率が異なるため、腫瘍の硬度が変化している可能性が高いと考えられます。
 さらに、小児腎悪性腫瘍であるWilms腫瘍や明細胞肉腫、悪性ラブトイド腫瘍などは、世界的に組織型がわからないまま手術や術前化学療法を行うプロトコールが行われていますが、組織型による硬度の違いによる診断が確立できれば、治療成績の向上が期待できます。また、腫瘍マーカーのない腫瘍における術前化学療法の効果や術中破裂のリスク評価など、組織硬度計測が期待できる用途は幅広いと考えられます。また、小児の固形悪性腫瘍では、診断時に原発巣が大きく切除不能なことが多く、そのため術前化学療法を行うことが多くありますが、化学療法の効果による壊死の程度で組織硬度も異なる可能性があり、治療効果の判定に用いることができる可能性があります。
3.研究の対象者について
 九州大学病院小児外科において2017年1月1日から2021年12月31日までに超音波検査を受けた患者さんの中で、組織硬度計測を行った患者さん50名を対象にします。
 研究の対象者となることを希望されない方又は研究対象者のご家族等の代理人の方は、事務局までご連絡ください。
 
4.研究の方法について
 この研究を行う際は、カルテより以下の情報を取得します。得られたデータを用い、他臓器はもちろん、同一臓器に発生した異なる悪性腫瘍であっても、病理組織学的診断の違いによる超音波検査計測の組織硬度の違いを明らかにすることや、小児固形悪性腫瘍において化学療法や腫瘍自体の分化に伴い超音波検査計測において組織硬度変化があるかどうかを経時的に結果を解析することで、超音波検査計測の組織硬度の変化の意義を解明します。
 
 〔取得する情報〕
年齢、性別、身長、体重、治療時の年齢、血液検査結果(白血球、総蛋白、アルブミン、腫瘍マーカー値)、画像検査所見(超音波検査、CT、MRI、PET-CT、MIBGシンチ)、最終予後、治療経過、病理組織学的所見、超音波検査による組織硬度データ(Shear wave imagingを使用。正常肝臓組織や腎組織の組織硬度も含む)、手術所見、手術時間、術中合併症の有無
 
5.個人情報の取扱いについて
 研究対象者のカルテの情報をこの研究に使用する際には、研究対象者のお名前の代わりに研究用の番号を付けて取り扱います。研究対象者と研究用の番号を結びつける対応表のファイルにはパスワードを設定し、九州大学大学院医学研究院小児外科学分野内のインターネットに接続できないパソコンに保存します。このパソコンが設置されている部屋は、同分野の職員によって入室が管理されており、第三者が立ち入ることはできません。
 また、この研究の成果を発表したり、それを元に特許等の申請をしたりする場合にも、研究対象者が特定できる情報を使用することはありません。
 この研究によって取得した情報は、九州大学大学院医学研究院小児外科学分野・教授・田尻達郎の責任の下、厳重な管理を行います。
 ご本人等からの求めに応じて、保有する個人情報を開示します。情報の開示を希望される方は、ご連絡ください。
 
6.試料や情報の保管等について
〔情報について〕
 この研究において得られた研究対象者のカルテの情報等は原則としてこの研究のために使用し、研究終了後は、九州大学大学院医学研究院小児外科学分野において同分野教授・田尻達郎の責任の下、10年間保存した後、研究用の番号等を消去し、廃棄します。
 
 また、この研究で得られた研究対象者の情報は、将来計画・実施される別の医学研究にとっても大変貴重なものとなる可能性があります。そこで、前述の期間を超えて保管し、将来新たに計画・実施される医学研究にも使用させていただきたいと考えています。その研究を行う場合には、改めてその研究計画を倫理審査委員会において審査し、承認された後に行います。
 
7.利益相反について 
 九州大学では、よりよい医療を社会に提供するために積極的に臨床研究を推進しています。そのための資金は公的資金以外に、企業や財団からの寄付や契約でまかなわれることもあります。医学研究の発展のために企業等との連携は必要不可欠なものとなっており、国や大学も健全な産学連携を推奨しています。
 一方で、産学連携を進めた場合、患者さんの利益と研究者や企業等の利益が相反(利益相反)しているのではないかという疑問が生じる事があります。そのような問題に対して九州大学では「九州大学利益相反マネジメント要項」及び「医系地区部局における臨床研究に係る利益相反マネジメント要項」を定めています。本研究はこれらの要項に基づいて実施されます。
 本研究に関する必要な経費は文部科学省科学研究費および部局等運営費であり、研究遂行にあたって特別な利益相反状態にはありません。
利益相反についてもっと詳しくお知りになりたい方は、下記の窓口へお問い合わせください。
利益相反マネジメント委員会
(窓口:九州大学病院ARO次世代医療センター 電話:092-642-5082)
 
8.研究に関する情報の開示について
 この研究に参加してくださった方々の個人情報の保護や、この研究の独創性の確保に支障がない範囲で、この研究の研究計画書や研究の方法に関する資料をご覧いただくことができます。資料の閲覧を希望される方は、ご連絡ください。
 
9.研究の実施体制について
この研究は以下の体制で実施します。
研究実施場所 九州大学病院小児外科
九州大学病院放射線部
九州大学大学院医学研究院小児外科学分野
研究責任者 九州大学大学院医学研究院小児外科学分野 教授 田尻達郎
研究分担者 九州大学病院総合周産期母子医療センター 助教 川久保尚徳
九州大学病院小児外科 学術研究員 宗﨑良太
九州大学病院放射線部 助教 藤田展宏
九州大学大学院医学研究院形態機能病理学分野 准教授 孝橋賢一
10.相談窓口について
この研究に関してご質問や相談等ある場合は、下記担当者までご連絡ください。
事務局
(相談窓口)
担当者:九州大学病院小児外科 学術研究員 宗﨑良太
連絡先:〔TEL〕092-642-5573
      〔FAX〕092-642-5580
メールアドレス:ped-surg@med.kyushu-u.ac.jp
 
 
 
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