新生児・呼吸器・輸液代謝栄養

新生児

九州大学病院では、平成元年に周産母子センターが開設され、平成20年3月に総合周産期母子医療センターとして認定されました。以後、地域における新生児外科医療の拠点としての責務を果たすとともに、九州全域に及ぶ広域医療圏の重症新生児外科患者を受け入れてきました。新生児外科における患者数の推移を表1に示します。新生児外科部門の入院数は年間約20~40例と経年的に差があるものの、手術件数はおおむね40件程度で推移している。対象疾患もさまざまであり、横隔膜ヘルニア、食道閉鎖症、腹壁異常などの出生後早期より集中管理を要する疾患から、直腸肛門奇形、嚢胞性肺疾患、神経芽腫、卵巣嚢胞など精査後に計画的手術を必要とする疾患まで幅広く診療を行っています。入院症例・手術症例の内訳を表2、3に示します。

表1:10年間の新生児外科入院数と手術件数の推移
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021
入院 34 37 42 34 34 42 25 34 21 16 319
手術 38 42 42 35 40 53 24 47 20 35 376
表2:過去3年間の入院内訳
疾患名 2019 2020 2021
先天性食道閉鎖 2 1
先天性横隔膜ヘルニア 6 2 4
肺嚢胞性疾患 4 1
肥厚性幽門狭窄症 1
その他の消化管穿孔 1
先天性十二指腸閉鎖 2 1
先天性小腸閉鎖 1 1
腸回転異常症 3 1
直腸肛門奇形 3 4 1
イレウス 1
その他の消化管疾患 3 5 3
胆道閉鎖症 2 1
胆道拡張症 1
腹壁破裂 1
鼠径ヘルニア 1
腎・泌尿器疾患 1
リンパ管腫・リンパ管腫症 1 1
卵巣良性腫瘍 2
その他の良性腫瘍 1 2
神経芽腫 1 1 1
腎腫瘍 1
その他 2
34 21 16
表3:過去3年間の手術内訳
疾患名 2019 2020 2021
先天性食道閉鎖根治術 1
食道閉鎖症に対する食道banding(+胃瘻造設) 3 1
肺部分切除術 2
肺葉切除術 1
先天性横隔膜ヘルニア根治術(開腹) 8 2 7
先天性横隔膜ヘルニア根治術(胸腔鏡/腹腔鏡) 1 3
臍帯ヘルニア・一期的根治術 1
腹壁破裂・多段階手術 4
臍腸瘻・メッケル憩室摘出 1
胃瘻造設術(開腹) 2
幽門筋切開術(開腹) 1 1
先天性十二腸閉鎖症根治術(開腹) 1 3 1
先天性小腸閉鎖症根治術 2
小腸瘻造設術 1 1
腸回転異常症手術(開腹) 3 1
人工肛門造設術 8 4 8
直腸肛門奇形根治術(会陰式) 1 1
胆道閉鎖:肝門部腸吻合術 1 1 1
肝生検(開腹) 1
食道・胃内視鏡検査 1
CAPDチューブ挿入術(開腹/内視鏡) 2
奇形腫摘出術 1
腎腫瘍切除・摘出術 1
腫瘍生検術(開胸/開腹/経皮的) 1
長期留置型中心静脈カテーテル挿入術(ポート含む) 1
ECMO 8 2
その他 2 1 3
その他の鏡視下手術 1
47 20 35
呼吸器

呼吸器疾患に対しては肺分画症,先天性嚢胞状腺腫様形成異常といった嚢胞性肺疾患や気胸に対して積極的に胸腔鏡や腋窩皺切開(脇の下の皺に沿った皮膚切開)を用いることによるMinimally invasive procedure(低侵襲手術)に努めています(写真).従来の大きな手術創による手術と比較すると,創瘢痕による整容的なストレスだけでなく,将来的な成長障害を予防することが可能となります。

またその他の胸部疾患として、漏斗胸に対する胸腔鏡治療を行っています。
漏斗胸とは,胸骨・肋軟骨、時として肋骨の一部が背骨に向かって陥凹している状態を表します。漏斗胸に対する標準治療として胸腔鏡を用いたNuss手術を行っています。本術式は,外科的胸部切開を行わずに両側胸部の小切開(約2cm)のみで行い、金属製プレートを約2年間留置し,陥凹を矯正する手術法です。低侵襲手術であり,約1時間半から2時間程度の短い手術時間で行うことが可能です。陥凹や症状が軽い場合でもお気軽に外来までご相談下さい。

輸液・代謝・栄養

輸液・代謝・栄養に関しては、主に新生児期、周術期の栄養管理を中心に、肝不全、心不全などの病態別栄養管理、腸管機能不全の栄養管理を行っています。入院・通院中の患者さんの栄養状態の改善のみではなく、食べる喜びを感じて頂けるように看護師、管理栄養士、薬剤師など多職種による小児栄養サポートチームとして栄養介入を行っています。

長期の静脈栄養管理が必要な患者さんの場合には、なるだけ長期入院を避けるべく、在宅中心静脈栄養管理(HPN : home parenteral nutrition)への移行をスムーズに行っています。HPNへの移行には院内の在宅医療連携室と連携して地域の無菌調剤薬局、訪問看護ステーション、開業医の先生方と連携して、県内外におけるHPNへの移行実績を積み重ねています。特に、短腸症やヒルシュスプルング病類縁疾患など腸管機能不全の患者さんの長期栄養管理は難しく、治療が難しい患者さんを国内外より受け入れてきました。私達は、1本の中心静脈カテーテルを長期間温存するカテーテル交換法(Fibrous sheath法)や、適応を満たす短腸症候群の患者さん7名に8回の腸管延長術(STEP : serial transverse enteroplasty)を行い、良好な治療成績をおさめています(写真)。国内でも有数の小腸移植施設として、長期栄養管理の先にある小腸移植への移行を考慮した腸管リハビリテーションを実施しています。